近所の公園の小道を風がひゅう、と吹き抜ける日、ショートパンツに足元はロングブーツを履いた若い女性とすれ違った。
私は彼女を見て、「そうか。久しぶりに、冬が来たんだね」と思ったのである。
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久しぶりの「冬」
私は今年の春、それまでの3年余りにわたる南国シンガポールでの生活を終え、家族で日本に本帰国した。
日本の冬は、2019年の冬に一時帰国して以来2年ぶり。だから私にとっては、これは久しぶりの冬なのだ。
さっきから「冬が、冬が」と言っているが、暦の上ではまだ秋なのだろうと思う。
それでも私が暮らす大阪では、ここ数日の間に一気に気温が下がった。
つい先週まで半袖のTシャツを着ていたのに、今週は長袖のシャツに冬物のジャケットなどを急いでクローゼットから引っ張り出している。
体感的にはまるで、秋をすっとばし冬が来たかのような変わり様だ。
日常に散らばる、美しい冬


ふと視点をあちこちに向けると、日常にはすでに美しい冬がたくさん散りばめられている。
ドラッグストアで冬らしいメロディーラインのラブソングが流れる。
2歳の息子を抱っこして歩きながら「寒いね。でもお母さんとギューとしてるとあったかいねぇ」と話しかけると、息子が幸せそうに微笑む。
そして彼が、生まれて初めて見る紅葉の落ち葉を「きれい」と言って拾う。
私は年中夏日のシンガポールで3年暮らした後に、日本の冬の美しさに気付くようになった。
もちろん気候が寒くなると、多少不都合なこともある。
衣替えをしなくてはならない。狭いマンション住まいの我が家では、冬服がクローゼット内で占める面積は大きい。
風邪もひきやすくなる。トイレも近くなる。
それでも季節が変わると、服が変わる。
人の表情が変わる。
玄関から一歩外に出たときに、頬に触れる空気が変わる。
流行る曲が変わる。
気持ちが変わる。
私はそのひとつひとつの変化を、とてもロマンチックだと思うようになった。
私はさっきドラッグストアで聴いて気に入った曲をスマホで聴きながら、夕飯のかぼちゃシチューを煮込む。
そうだ、この感じもずっと忘れていた。
久しぶりに、冬が来たのだ。
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